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福島簡易裁判所 昭和32年(ろ)5号 判決

被告人 阿部峯吉

主文

被告人は無罪。

理由

本件公訴事実は、被告人は

第一、昭和三十一年三月十五日頃、福島県信夫郡飯坂町中野字滝ノ沢八十四番地A女の方において同家縁側で裁縫中の同人の臀部を手で数回撫で回し、

第二、同日同字九十二番地B女方風呂場において同所の開き戸を開放したまま掃除中の同人の臀部を手で数回撫で回し、

第三、同日同字百六番地C女方風呂場において同所開き戸を開放したまま掃除中の同人の臀部を手で数回撫で回し、

もつて夫々公然猥褻をなしたものであると、いうに在る。

よつて審理してみると被告人は昭和三十一年三月十五日前記部落を行商中

(一)同日右字滝ノ沢百六番地C女方風呂場において三尺の開き戸を開放した入口に立ち場内で掃除中の同人の臀部を着衣の上から手で数回撫で、(二)同日右同所九十二番地B女方風呂場において三尺の開き戸を開放した入口に立ち場内で洗濯中の同人の臀部を着衣の上から手で数回撫で、(三)同日右同所八十四番地A女方において開放された縁側で裁縫中の同人の臀部を着衣の上から手で撫でたる各事実は検察官録取の被告人、C女、B女の各供述調書証人C女、同B女、同A女の各供述及検証調書を綜合して認定することができる。

しかし按えてみるに、刑法第一七四条にいわゆる猥褻とは「徒らに性欲を興奮又は刺戟せしめ且つ普通人の正常な性的羞恥心を害し善良な性的道義観念に反するものをいう」(昭和二六・五・一〇最高裁判所第一小法廷判決参照)のであるがその行為についていうなら故なき性器の露出、性交の状態又はこれに類する性的姿態を露骨な表現によつてこれを示すことにあるといえよう、ところで本件被告人の所為は前段認定のごとくいずれも単に臀部を着衣の上から撫でたというのであつて反良俗的行為ではあるが上記性的行為とは目し難く、社会通念上これを猥褻行為とはいえない、つまるところ被告人の所為は公然猥褻の罪を構成しないものというべきであるから刑事訴訟法第三三六条前段により被告人に無罪を言渡すべきものとし主文のとおり判決する。

(裁判官 中沢四郎)

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